はじめに
ネットをはじめとしたメディアの世界を見ていると、
SNSを中心に、さまざまな情報が次々と飛び込んできます。
そこに並ぶのは、自分の毎日とは全く違う誰かの日常の切り抜き。
そうした世界を何気なく眺めているうちに、
ふと、自分の生活がなんだか“足りていない”ような、
そんな気持ちに襲われることはないでしょうか。
もちろん、美しい景色や美味しそうなお料理、
趣味等のプライベートで充実した日常、
その素敵な日々の様子等に励まされることもあります。
けれど、そうした「見えるもの」が続くと、
あなた自身の価値観が、どこかに置き去りにされ、
大切な日常が色あせて見えてしまうこともあると思うのです。
今の時代、例えそれが背景のわからない一瞬の事象だったとしても、
「見えること」が、とても大きな価値を持つ時代になりました。
そして、こうして可視化が進む中で、
本来、比較する必要もないものまで意識してしまい、
私たちはいつの間にか「見えないもの」の大切さを
少しずつ忘れていっているのかもしれません。
「見えること」が基準になる社会
今も昔もメディアの露出は注目を集めるもので、
今は誰でも気軽に何かを表現できる環境が整い、
様々な仕組みが「見せること」を前提に組み立てられています。
日々の出来事が写真や動画で切り取られ、
成果は数字や実績で評価される。
そうして積み上がっていく断片的な情報が、
まるで成功や幸せの証であるかのように扱われるようになっています。
もちろん、可視化されたことで助かった人もたくさんいます。
見過ごされてきた声が届くようになったり、
不正やハラスメントの抑止力になったこともあるでしょう。
けれど、その価値があまりに大きくなりすぎて、
いつの間にか”見えるもの”こそが正解、正義、
そんな空気に、私たちはなんとなく包まれてはいないでしょうか。
「見えない支え」がある日常
一度、日々の情報の波から離れて、
私たちの暮らしを少し俯瞰して眺めてみてください。
目に見える華やかさ等はそこになくても、
本当の意味で私達の生活を支えているのは、
人目に触れない場所で積み重ねられている“静かな営み”です。
例えば、深夜も止まることのない製造や物流の現場。
早朝から仕事に従事し、食卓を守ってくれている農産業。
地域の安心や快適さを支える、電気、水道、通信等のインフラ産業。
困っている人のそばに寄り添い続ける医療や介護、福祉の現場。
子供達の未来に寄り添い、日々見えない努力を重ねる教育者たち。
そして、私達の安全な暮らしを見守ってくれている警察や消防の方々。
挙げればきりがないほど、
日常の“当たり前”を支える、かけがえのない仕事がそこにあります。
けれど、そうした働きは、ネットニュースにも、SNSのトレンドにも
ほとんど取り上げられることはありません。
それでも、そうした「なくてはならない手」が、
今日もどこかでしっかりと働き、
私たちの暮らしを静かに、確かに支えてくれているのです。
もしかしたら、それはあなた自身や、
あなたの大切な誰かのお仕事ではないでしょうか。
想像力を働かせること
そうした「見えない営み」にふれたあと、
あらためて、私たち自身の目に映る世界を思い返してみましょう。
「今、目に入っているもの」これを判断の基準にしてしまうと、
どうしても価値感や感じ方が偏ってしまいます。
先に述べたように、目に見えない沢山の人の手間や配慮の上に
「当たり前の暮らし」が成り立っています。
そうした背景に、ほんの少し思いを巡らせる時間を持つことは、
心を豊かにし、ご自身や大切な方々のお仕事にも、
誇りと尊敬の視点をもつことに繋がるはずです。
何気ない日常の風景の裏側には、お一人お一人の大切な人生が流れています。
それに気づける心、想像力は、情報の波に流される現代だからこそ、
とても大切になっているのではないかと思います。
誰の暮らしにも、声に出さない苦労や努力があって、
普段は見えなくても、たしかに積み重ねている大切なもの。
あなたが歩んできたその道もまた、同じように尊く、大切にされるべきものです。
最後に
忙しさや不安、良くない気持ちの波にのまれそうになったとき、
私がいつもしている事があります。
それは、深呼吸をして、部屋の中をゆっくり見回すこと。
部屋の灯り、家具や家電、本やインテリア、
それらは全て自分では作り出すことができない素晴らしいもので、
どこかの誰かが時間をかけて、大切に作り、届けてくれたものです。
”意図的に見せられる世界”の中にはない静けさと、
どことなく温かな空間がそこにはあります。
そして、その温かさに応えるように、
想いを誰かに伝えるためにそっとささやく、
美しく、最高の言葉。
「ありがとう」
一人一人から発せられたこの言葉が風に乗って巡り、
いつかあなたのもとへも届きますように、
優しい世界が少しずつ広がっていきますように。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。